マンモ(ス)グラフィー絶滅の危機??? -乳腺外科-
乳癌検診と聞いて、最初に思い浮かぶことは何でしょうか?
『あの長い時間、乳房を引き延ばされ、板に挟まれて、痛い思いをする。。。』そうです、マンモグラフィー(図a)です。乳癌検診のイメージを悪くする原因の1つになっているかもしれませんね。実際、乳癌検診の欧米受診率は80%と高いのに比べ、日本の受診率は16%とかなり低いです。
乳腺外来では『マンモグラフィー以外の検査はないのですか?』と患者さんによく聞かれます。乳房エコーという超音波による検査があり、これは痛みなく短時間の検査なので患者さんの負担も少ないです。ではなぜ乳房エコーを検診で行わないのでしょうか。
それは“マンモグラフィーを用いた乳癌検診は乳癌死亡率を低下させるというエビデンス(証拠)”があるのに対して、“他の検査方法では乳癌死亡率を低下させるというエビデンス(証拠)”が、現在の日本にはないからです。
これが日本の乳癌検診=マンモグラフィーとなっている理由の1つです。『え~じゃ、やっぱりマンモグラフィーはやるんだ。。。』今は確かに、そうですが、現在日本では“乳房エコーでも大丈夫じゃないか”という研究(臨床試験J-START)が行われているので、結果が楽しみです。
今回はさらにもっと未来の検診を話そうと思います!
『未来の検診?そんなの必要ないよ。。。』そう言わずに聞いて下さい。
乳癌検査には、3番目として乳房CT検査があります。造影剤を使用してCTを撮影し、3D画像(図b)を構築するものです。この3D画像は患者さんへの説明の際に分かりやすいと評判が良く、乳癌の広がり診断で手術の切除範囲の決定に使用しています。しかし、造影剤アレルギーと放射線被爆という問題があり、乳癌検診で利用することは難しいと思われます。
そこで最後の4番目として(ここからが本題です!)、乳房MRI( MRマンモグラフィー)があります。乳房MRIはうつ伏せになった患者さんの乳房を2つの穴に装着することで(マンモコイル)、乳房からの電波を間近でキャッチし,より精密な画像を映し出せるという優れた検査です。どの位優れているかというと、他の検査方法では見つけられない乳癌を発見することが出来、実は乳癌発見率が1番高い(感度が高い)検査と言われています。『じゃ、乳房MRIで乳癌検診すればいいじゃないか!』と思いますよね。ですがまだ、造影剤の使用、検査時間・費用などの問題点がある状況です。
でも、待ってください、ここからは未来の検診になる可能性があることをお話しいたします。
まずは海外の現状を見てみましょう!米国放射線学会や欧州乳房画像診断学が主導のガイドラインには【BRCA遺伝子変異などハイリスク患者に対しては乳房MRIでスクリーニングする】ことが記載されています。『えっ?なんのこと?』と思うかもしれませんが、皆さんもアメリカの有名女優アンジェリーナ・ジョリーさんが乳房を予防的に切除した話なら知っていますよね。彼女はBRCA遺伝子変異がある(将来の乳癌になる確率が85%)と診断を受け、乳癌になる前に乳房を切除したのです。つまり、欧米ではBRCA遺伝子変異などがある乳癌になりやすい患者さんに対しては、乳房MRIによる乳癌検診をしているわけです。そのため日本でも、乳癌になりやすい患者さんに対して、乳房MRIで乳癌検診をしようと日本乳癌検診学会が取り組んでいる最中です。加えて、今は造影剤を使用して乳房MRIを撮影していますが、造影剤を使用しなくても上手く撮影が出来るのではないかという研究もされています。
お~これは乳房MRIが将来、乳癌検診に採用される日も近いのではないかと期待できますね!
現在、乳房MRI(図c,d)は、手術前の乳癌の広がり診断で切除範囲の決定に使用しています。さらに、マンモグラフィーや乳房エコーでは乳癌の診断が難しい症例、また手術前の抗癌剤治療の効果判定に乳房MRIを用いています。
今はこのような使用をしている乳房MRIですが、未来の乳癌検診では活躍しているかもしれませんね!
女性医療クリニックLUNA横浜元町
乳腺外科医 小関 淳
図
乳房画像検査:右乳房C領域の乳癌症例
(a) マンモグラフィー
(b) 乳房造影3D-CT検査
(c) 乳房MRI (T1脂肪抑制)
(d) 乳房MRI(MIP像)