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どうして私がトランスジェンダー診療に関わり始めたか?

 

 

 

 

 

 

性機能外来の村田です。

4月からLUNAでトランスジェンダー外来が始まるとのことで、記事をしたためております。

 

実は、私も微力ながらトランスジェンダー診療に関わっております。

 

 

…とはいっても、今はFemale to Male( FtM; もともとの戸籍上の性は女性で、自認する性が男性)の方の内性器のcheckや女性ホルモンの処方、ちょっとした体調不良の相談などを受けているぐらいです。あとは、山梨大学形成外科の百澤明先生が主催する関東ジェンダー医療協議会で、ジェンダーに関する医療の介入が必要な方に、適切な医療を提供するための活動のお手伝いをさせて頂いています。

 

どうしてこうしたトランスジェンダー診療に関わるようになったのか?

そもそもは、四ツ谷の主婦会館クリニック(2019年閉院。現在はカウンセリングルームのみ)で性機能の勉強をさせて頂いていた折に、患者さんとして性同一性障害(ここではより多くの方に認識されている言葉を選びました)の方々に出会いました。

私は、お恥ずかしながら、それまで医師としても一般人としても、性同一性障害の方とお話する機会はほとんどありませんでした。初めて彼らと接して思ったこと、それは「ふつう!!」でした。

 

そんな「ふつうな人たち」、例えば、「ふつうの男性」が「おちんちんがなくて、腟がある」というだけで、「ふつうの女性」が「おちんちんがついている」もしくは、「もともとはおちんちんがあった」というだけで、一般の診療所から診察を拒否されてしまったり、私たち婦人科医から診療を拒否されてしまったりという現状を、堀口貞夫先生に教えて頂きました。

 

率直に、「そんなのおかしい!」と思いました。

どうして彼らが医療機関から診療を拒否されてしまうのかといえば、一番大きな理由、なんだと思いますか?

正直なところ、「よくわからないから」なんです。

 

でも、よく考えてみれば、性器が違うだけで、内臓もなにも別に普通です。性同一性障害の人は、心臓違いますか?腎臓違いますか?血液違いますか?男性にある腟だって、普通の女性のものと変わらないです。女性のおちんちんだってそうです。

 

男性ホルモンや女性ホルモンを投与されてるって?そんなの婦人科にくればホルモン療法をしている女性なんて沢山いるわけですし、ホルモン療法を行っていない男性も、女性ホルモンは自然に出ていますし、女性だって男性ホルモンが出ています。最低量のホルモン療法を行っているからと言って、なにを恐れることがありましょうや。

…と私は思ったのですが、でも、結局、「よくわからないから」という理由で拒否している医療機関や医師は多いのだと思います。

そして、私が一番気になったのが、FtMの方に対する性別適合手術(内性器摘出、内摘)についてでした。

私は普段、腹腔鏡下の子宮全摘出や卵巣摘出を日常的に行える病院に勤務しています。普通にできる手術が、必要な人に施せないもどかしさ…(性別適合手術についてはまた長くなるので、いつか機会があれば…)!

「とりあえず、別に普通なんだから、ちょっとした相談事は診せてください」と始まったのが私のトランスジェンダー診療でした。

そして、御茶ノ水の針間メンタルクリニックの針間先生のところでトランスジェンダー診療を見学させて頂いたり、GID(性同一性障害)学会に参加し勉強をさせて頂くなかで、気付いたことがありました。

 

それは、「やっぱりトランスジェンダーの人は普通だった」、ということでした。

 

少し難しいお話になりますが、よく、性同一性障害とは「体の性と心の性が一致しない病気」ととらえている人がいらっしゃいます。これは実は間違いです。性同一性障害とは、「自分の自認する性が一貫性を保てないためにおこる障害」です。一貫性を保てないのは、本人の内面に原因があるのではなく、本人が自認する性と周囲の環境が認識する性が不一致なために起こります。

 

想像してみてください。自分は確信をもって「女性(あるいは男性)だ」と思っているのに、親からも友達からも、社会からも「お前は男性(あるいは女性)だ」と言い続けられたら?ジェンダーでなくても、「私はこうだ」とするアイデンティティを、小さいころからみんなに否定され続けたら?自分に自信がなくなったり、気持ちがふさいだり、自分を保てなくなったりしないでしょうか?

私は即つぶれると思います。

 

つまり、「まわりが認識する性」が間違っているから、性同一性障害は起きるのです。

確かなのは、「本人が自認する性」です。ここが軸です。「まわりが認識する性」ではないのです。

 

…ので。「本人が自認する性」に「まわりが認識する性」を合わせるように、ホルモン療法を行ったり、手術をしたり、社会を合わせるお手伝いをしましょう、というのが現在のGID診療になります。

 

GID学会での勉強会で、私の認識を大きく変えてくださったのは、明治大学准教授で臨床心理士である佐々木掌子先生の講義でした。

 

「性」とは、ひと口に言っても、その中にはいろいろな側面があります。「戸籍上の性」「身体の性」「性同一性」「性役割」「性指向」などです。

「戸籍上の性」は一般的には二元論で語られます。つまり、「男性」か「女性」か。

しかし、そのほかの性はどうでしょうか?

 

「身体の性」ですが、医学的に、男性でも女性でもない方はいらっしゃいます。

 

「性同一性」。簡単にいうと自認する性です。「男性」「女性」と自分のことを思っている人は多いですが、「男性でも女性でもない」や「男性じゃないなにか」「女性ではないなにか」と思っている人もいます。

 

「性役割」は、たとえば家庭での「母性」や「父性」、ある集団の中での「姉貴的存在」「兄貴的存在」などです(『風の谷のナウシカ』のクシャナは女性ですが、トルメキア軍の中では兄貴的存在ですし、『鬼滅の刃』の悲鳴嶋は男性ですが、孤児たちからすれば母親のような存在だったのではないでしょうか?…わからない方すみません)。

「性的指向」は性愛の対象です。同性を性愛の対象にする人もいれば、異性を対象にする人もいます。中にはどんな人も性愛の対象にならない、という人もいますし、相手の性は関係なく性愛の対象になるという人もいます。

 

「戸籍上の性」以外のさまざまな「性」が二元論ではなく、連続性のある帯のような、幅のあるもの(虹に例えられます)だということがおわかりでしょうか?この多様な「性」の組み合わせがひとりの人のジェンダーを複雑に形成しているのです。

 

そう考えると、あなたの性はどうでしょうか?

あなたの性も、この連続性のある帯のような幅のあるもの、のどこかに属する、ひとつの形なのだと思いませんか?

つまり、「自分は普通」と思っている人(いわゆるストレートや、のんけ)のジェンダーさえも、実は特別で、その多様な側面は人それぞれ違うという訳なんです。

逆にいえば、みんな特別で、それが「普通」なんです。

 

この講義を聞いて、「トランスジェンダー」とくくられた人たちをいい意味でも悪い意味でも特別視することはナンセンスなことだな、と思うようになりました。ジェンダーを持つすべての人が特別で、普通なのですから。

 

実は、この考え方は私の性機能外来にも通じています。

私は性にはタブーがないと思っています。「日本の性にはタブーがない、倫理がある」と書かれた本がありました。本当にそうだと思います。みんなが誰も傷つけず、傷つけられず、それぞれの性を謳歌できることが大事だと思っています。

そのために、私たち医療者は相談者ひとりひとりのジェンダーに寄り添い、ひとりひとりが性を謳歌するために、そのお手伝いができたらいいな、と思っています。

 

トランスジェンダー外来

トランスジェンダー外来でできること

2021.4.10
村田佳菜子医師