性欲低下について④ 妊娠出産
性欲低下シリーズ 第4弾!
妊娠したら?出産したら性欲は落ちるのか!?
子供を出産後、全くセックスがない、夫に誘われてもする気が起きない、断ると喧嘩になって困る…
といった訴えをよく耳にしませんか?
パートナーを嫌いになったわけではないのに、どうして?
妊娠出産は、女性にとって人生の大きなイベントであり、その生活をがらっと変化させますが、
実は心理的身体的面でも性欲が湧きにくくなるような変化が起きています。
妊娠による性欲の変化
妊娠中の70%の女性は性欲が低下するといわれていますが、中には性欲が上昇するという人もいます。
妊娠中の性欲の亢進には妊娠によるホルモン分泌の変化が考えられています。
具体的には男性ホルモンの一種が上昇し性的快楽を向上するといわれています。
しかし、多くの場合心理的な理由から性欲は低下します。つまり、
・胎児を傷つけるのではないか
・流産のおそれ
・つわりや倦怠感、乳房痛などの身体的不快感
・帯下の増加
・腹部の増大や色素沈着、痔などボディーイメージの低下
…などなど。
胎児を心配する気持ちは、男性側も同じ気持ちのようです。夫婦でおっかなびっくりしていたら、それはセックスできませんよね。
でも、基本的には妊娠中の性行為は問題ありません。
腹部を圧迫しない体位をとるように工夫(なぎ男となみ子による実演参照)したり、
挿入がこわければ挿入にこだわらず、用手による射精にしたりしましょう。
体調に合わせていろいろ試してみて下さい。
ただ、出血がある、おなかがはる、切迫早産の疑いがあったり診断されている人では、腟への挿入は避けた方がいい場合があります。
助産師さんは妊婦さんの性行為についてもアドバイスをくれますので、積極的に相談してみましょう。
産後の性欲の変化
産褥期は女性ホルモンが低下しているため、潤滑も十分でなく、性欲も低下した状態です。
これは授乳がない場合は2,3か月で、女性ホルモン(エストロゲン)の上昇とともに改善していきますが、授乳の間は抑制されます。
抑制は授乳回数が多い、また夜間の授乳を行っている場合は顕著ですので、
改善方法として授乳回数を減らす、夜間の授乳をやめてみるというのもいいかもしれません。
ある調査では、多くのカップルが産後1.5~2.5か月の間にセックスを再開し、
産後5か月までに70%のカップルがセックスを再開しました(あくまで目安なのでこれに当てはまらないからと言って気にしないでください。ご自分のペースでいいんです)。
また、産後一年ほどで性行為の感覚が通常にもどるといわています。
再度オキシトシンのお話です。
オキシトシンは母子間の愛着を強めるとお話しました。
また、カップル間の愛着も強めます。(→『性欲低下について③ 心因性、カップル間の心理的関係性の問題』参照♡)
では、父子間では…?
なんと父子間でも愛着を強めます。
母子間では、母は子に授乳する、見つめる、話かける、抱きかかえるなどの行動でオキシトシンが上昇しますが、
父子間では、おもちゃであやす、物理的刺激(くすぐる、なでるなど)を与え子供を喜ばせるような接し方でオキシトシンが上昇します。
熱心にすればそれだけ上昇します。
カップル間でオキシトシンを上昇し合えない状況でも、子供を介して父(パートナー)のオキシトシンを上昇させられるということです。
これによって、母父間のオキシトシンも上昇した状態になり、母父間の親密度、愛着も強まります!
また、オキシトシンが上昇するかはわかりませんが、夫が家事をする夫婦の親密度は高いのだそうです。
妻に対する共感や思い遣りと関わっていると考えられますので、調べればオキシトシンが男女ともに上昇しているかもしれませんね。
産後の性欲低下、セックスレスの相談で、よく聞いてみたら
「こどもが生まれた時に夫が世話をしてくれなかった」
「夫が家事をしてくれなかった」
という不満が根底にあったというのはよくあることです。
直接出産後の妻に接触できないような状況(機嫌が悪い、頑なで取り付く島がないなど)でも、
パートナーができることはありますので、根気よくトライしてみてください。
また、この父子間の親密度を上げる作戦は、母体が産後うつ気味な時にも有効です。
産後うつかな?と思った場合は
すぐに産院やメンタルクリニックに相談して欲しいのですが、
そのうえで、父が、母に対しても子に対しても接触を増やし、カップル間、父子間の愛着を強めましょう。
産後うつの母はオキシトシンの分泌が抑制されています。
母子ともにオキシトシンの反応性が鈍くなっており、愛着形成が起きづらくなっています。
また、なにもしないでいると父のオキシトシンも低下します。
カップル間、父子間のオキシトシン濃度を上げることで、
母子間のオキシトシン濃度もあがり、母子間の愛着形成にもつながります。
また、オキシトシンは抗ストレスホルモンとも呼ばれています。
脳の報酬系(reward system。 やる気、ポジティブ思考、悦びに関わる神経回路システム)の
感受性をたかめストレス耐性を強化するといわれています。
一方、母たちへ。
産後で大変とは思います。
赤ちゃんはずっと見ていなくちゃいけないし、
3時間ごとの授乳でへとへと睡眠不足だし、
そんな状況でセックスしたいと夫にいわれても「は?」て感じかもしれません。
ですが、夫たちは戸惑っています。
何をしていいのかわからず右往左往しています。
また、男性にとってセックスを断られることはかなりショックなことです。
気持ちの弱い人は一回断られたらもう立ち直れず、二度と誘わなくなってしまう男性もいます。
男性はナイーブなのです。
できないときは、「あなたとのセックスがいやなのではなく」
体調がわるいことや、産後は性欲がさがるといったような生理的なことを(優しく)説明し、
まずは肌のふれあいから始め、育児や家事を手伝ってもらい、余裕ができたところでセックスに応じてあげるようにしましょう。
男性には具体的に解決策や行動指針を提示してあげるとよいでしょう。
まずはここで述べたことを、できることからやってみて下さい。
それでも、やっぱり性欲が湧かず、パートナーとセックスができないと訴えて外来にいらっしゃる方もいます。
夫は家事をしてくれるし、子供の面倒も見てくれる。セックスレス以外の関係性は良好、夫に対しなんの不満もない。…だけど、セックスだけ応じられない…。
こんな方には男性ホルモンの注射が効果てきめんです。是非一度ご相談ください。
(→『性欲低下について② ホルモン異常と男性ホルモン補充療法』参照♡)
夫婦にとってセックスは一生ものです。放置しないでくださいね。
2021.12.12
村田佳菜子医師